不動産が赤字なら、その分だけ給与の所得税が戻ってくる——そう見込んで確定申告に臨んだのに、いざ計算すると還付額が思ったより少ない。その原因は、赤字の中に給与と相殺できない部分がこっそり潜んでいるからかもしれません。今日は、不動産投資でつまずきやすいこの落とし穴を整理します。

そもそも損益通算とは

損益通算とは、ある所得で出た赤字を、別の所得の黒字から差し引ける仕組みのことです。不動産所得・事業所得・譲渡所得・山林所得の4つで生じた損失は、一定のルールのもとで給与所得などと相殺できます(所得税法69条)。

会社員が賃貸物件を持ち、その不動産所得が赤字になったとき、給与から天引きされた所得税の一部が還ってくる——これが「不動産投資は節税になる」と言われる仕組みの正体です。減価償却や初年度の諸費用で会計上は赤字でも、手元のお金は減っていない、という状態をうまく使うわけです。ただし、この赤字まるごと通算には、あまり知られていない例外があります

設例:想定より還付が少なかったKさん

設例(フィクション)

会社員のKさん(50代後半・機械メーカー勤務、給与年収は約900万円)は、老後の備えに地方都市の中古一棟アパートを購入しました。価格は8,000万円で、内訳は土地が約4,500万円、建物が約3,500万円。自己資金はほとんど入れず、金利年2%で8,000万円をフルローンで借りています。

初年度は登記費用や減価償却が重なり、不動産所得はおよそ150万円の赤字。Kさんは「赤字なら給与と相殺できて、源泉徴収された税金がまとめて戻るはず」と計算していました。ところが実際の還付は想定を下回ります。税理士から「赤字のうち、土地を買うために借りたお金の利子に対応する部分は通算できません」と言われ、Kさんは戸惑いました。

土地の借入利子は通算できない

カギになるのは、租税特別措置法41条の4という特例です。不動産所得の損失のうち、「土地等を取得するために借りた負債の利子」に相当する部分は、なかったものとみなされます。その分は給与と相殺できません。

Kさんのケースで数字を当てはめると、次のようになります。

  • 年間の支払利子:8,000万円 × 2% = 約160万円
  • そのうち土地に対応する部分:160万円 ×(4,500万円 ÷ 8,000万円)= 約90万円
  • 不動産所得の赤字150万円のうち、90万円分は通算の対象から外れる

結果として、給与と相殺できるのは残りの60万円だけです。期待していた「150万円まるごと」とは、ずいぶん差が出てしまいます。

区分金額
不動産所得の赤字150万円
うち土地利子で切り捨て90万円
給与と通算できる金額60万円

損失よりも土地の利子のほうが大きい年は、赤字の全額が通算できなくなります。逆に利子が少ない年ほど、切り捨てられる額は小さくなります。この取り扱いは、かつて土地への過剰な投機を抑える目的で設けられた歴史のある規定で、今も現役です。「不動産の赤字=全額そのまま節税に使える」と単純に考えると、資金計画そのものが狂ってしまうことがあります。

実務上の対応

まず押さえたいのは、借入金の充て方です。土地と建物を一括で買ったときの借入金は、税務上「先に建物の代金に充てられ、残りが土地に充てられた」ものとして計算できます。つまり、自己資金を厚めに入れているほど土地に対応する利子は小さくなり、切り捨てられる額を抑えられる余地があるということです。

  • 購入前に、土地・建物の価格按分が妥当かを確認する
  • 自己資金と借入のバランスを事前にシミュレーションしておく
  • 初年度の見せかけの節税額ではなく、通算後の手取りで投資判断をする

買った後ではなく買う前の設計が勝負どころです。売買契約書に土地・建物の内訳を合理的な根拠で記載しておくことも、後々の計算のよりどころになります。

この記事のまとめ

  • 不動産所得の赤字は、原則として給与と損益通算できる
  • ただし土地取得のための借入利子に見合う部分だけは通算の対象から外れる
  • 自己資金の入れ方や土地・建物の按分次第で、通算できる金額は変わってくる

税理士として、私が思うこと

税理士として不動産投資のご相談を受けるたびに、この土地利子の切り捨ては特に見落とされやすい論点だと感じています。販売資料の節税シミュレーションは魅力的に見えても、いざ申告してみると数字が変わることが少なくありません。

この論点でつまずきやすいのは、「不動産所得=赤字全額が節税になる」という単純化した理解が、購入前の資金計画の段階から染みついてしまっている点にあると感じています。土地と建物の按分次第で結果が変わることは、契約書にサインする前に知っておきたい情報です。

※本記事の設例は、相談現場でよく見られる構造をもとに整理したフィクションです。特定の顧問先・個人を示すものではありません。