「株で損した年は、確定申告なんて関係ない」——そう思って年末調整だけで済ませていないでしょうか。実はその判断が、翌年以降3年分の節税チャンスを丸ごと手放すことにつながります。上場株式の譲渡損失は、正しく申告すれば将来の利益から取り戻せるのです。

そもそも譲渡損失の繰越控除とは

上場株式などを売って損が出た年、その損失をその年の利益と相殺してもまだ引ききれない——。そんなときに使えるのが「繰越控除」です。引ききれなかった損失を翌年以後3年間持ち越し、将来の譲渡益や配当所得から差し引ける仕組みで、租税特別措置法37条の12の2に定められています。

ポイントは2つあります。

  • 損失は翌年から最長3年間、繰り越せる
  • 繰り越した損は、その後の株の利益や配当と相殺できる

「今年の損」は消えてなくなるのではなく、うまく使えば数年がかりで税金を減らす種に変わります

設例:損失を諦めかけていたBさん

設例(フィクション)

地方都市に暮らす会社員のBさん(50代後半・男性)は、退職金の一部を上場株式で運用していました。ある年、値下がりが続いた銘柄をまとめて売り、約180万円の譲渡損失が発生。同じ年に別の銘柄で得た60万円の利益と相殺しても、なお120万円の損が残ります。

Bさんは「損は損。もう取り返せない」と諦め、給与は年末調整で完結するからと確定申告もしないつもりでした。ところが翌年、持ち続けた別の銘柄が値上がりして90万円の売却益が出ます。「去年の120万円の損、今年の90万円の利益にぶつけられないのだろうか」——ここで初めてBさんは、繰越控除という制度の存在に気づきます。

繰越控除が使えなくなる3つの落とし穴

繰越控除は、黙っていて自動で適用されるものではありません。次の3つを外すと、せっかくの制度が使えなくなります。

  • 損の年に確定申告していない:損失が出た年に申告しておかないと、繰り越すべき損そのものが記録に残りません
  • 途中の年で申告をやめてしまう:繰越期間中は、株の売買がまったくない年でも連続して申告を続ける必要があります
  • 口座の種類を勘違いしている:NISAなどの非課税口座内で出た損は、そもそも「なかったもの」として扱われ、繰越にも損益通算にも使えません

特に3つ目は誤解が多いところです。非課税で得するはずのNISA口座は、裏を返せば「損しても救ってもらえない」口座でもあります。

繰越控除は損が出た年の申告が出発点です。その後は取引のない年も含めて毎年連続して申告しないと、途中で権利が途切れてしまいます。Bさんのように「損した年は申告不要」と早合点すると、この出発点を自分から消してしまうことになります。

申告する場合としない場合で、Bさんの税負担がどう変わるかを整理すると次のとおりです。

項目損の年に申告しない損の年に申告する
120万円の損失記録されず消滅翌年以後3年繰越
翌年の90万円の利益全額に課税損と相殺し課税ゼロ
節税効果(税率20.315%)0円約18万円

たった一度の申告の有無で、これだけの差が生まれます。

繰越控除を使い切るためのポイント

繰越控除を無駄なく使い切るために、押さえておきたいのは次の3点です。

  • 損が出た年は、他に申告の必要がなくても確定申告をしておく
  • 繰越期間の3年間は、取引がなくても毎年申告を続ける
  • 上場株式と一般株式(非上場株など)は所得区分が別で、原則として互いに損益通算できない点に注意する

繰り越した損は、まず翌年の利益から順にぶつけていきます。3年で使い切れなかった分は、その先には持ち越せません。「いつ・どの利益と相殺するか」を意識して売買のタイミングを考えると、節税効果をより大きくできます。

この記事のまとめ

  • 上場株式の譲渡損失は、損が出た年に確定申告をしておけば翌年以後3年間繰り越せる
  • 繰越期間中は取引がない年も含めて連続して申告し続ける必要がある
  • NISA口座内の損失は繰越控除の対象外になる

税理士として、私が思うこと

税理士として資産運用のご相談を受けるなかで、「損した年ほど申告から足が遠のく」というのは、とても自然な心理だと感じています。数字が赤字だと、書類に向き合う気力さえ削がれてしまうもの。けれど、その一枚の申告書が数年後の税金を左右する場面を、これまで幾度も目にしてきました。

この論点でつまずきやすいのは、「損失=申告不要」という直感が、繰越控除という将来の権利を自分から手放す行為になっていると気づきにくい点にあると感じています。損の年こそ、実は申告の価値がいちばん高い年でもあります。

※本記事の設例は、相談現場でよく見られる構造をもとに整理したフィクションです。特定の顧問先・個人を示すものではありません。