副業も立派な仕事だから、赤字が出れば給与と相殺して税金が戻る──そう考えて確定申告に臨んだところ、その赤字が「なかったこと」にされてしまうケースがあります。副業を持つ会社員がつまずきやすい所得区分の分かれ目を整理します。

事業所得と雑所得、何が違うのか

同じ副業収入でも、税務上「事業所得」と「雑所得」のどちらに区分されるかで、使える特典は大きく変わります。

  • 事業所得なら、赤字を給与など他の所得と損益通算できる
  • 事業所得なら、青色申告特別控除(最大65万円)や純損失の繰越が使える
  • 雑所得の場合は、そのいずれも使えない(給与との相殺も不可)

開業初年度に赤字が出た場合、給与所得と通算できるかどうかで還付額が大きく変わるため、この区分判定は軽視できません。副業への投資がかさみやすい立ち上げ期ほど、判定基準を知らずに申告するとつまずきやすいところです。

雑所得に区分された場合、赤字はその年の他の所得と相殺できないだけでなく、翌年以降への繰り越しもできません。つまり、機材やソフトへの初期投資でせっかく赤字を抱えても、税務上はその赤字が「なかったこと」として扱われてしまいます。

設例:副業収入250万円、帳簿なしのBさんが直面した誤算

設例(フィクション)

会社員のBさん(40代・都内在住、妻と小学生の子ども1人)は、平日は勤務先で働きながら、週末を中心にウェブサイト制作の副業を続けています。副業収入は年間およそ250万円。開業初年度は機材やソフトの購入、外注費がかさみ、40万円ほどの赤字になりました。

Bさんは「事業所得で申告すれば、この赤字を給与所得と損益通算して所得税が戻る。ついでに青色申告特別控除も使おう」と考えていました。ところが日々の帳簿はほとんど付けておらず、領収書もレシート箱にまとめて放り込んだままでした。

Bさんが見落としていたのは、収入の金額だけでなく、帳簿を残しているかどうかが判定の分かれ目になるという点でした。

判定の分かれ目──「300万円」と「帳簿書類の保存」

副業が事業所得か雑所得かは、もともと「社会通念に照らして、事業と呼べる規模・態様で営んでいるか」で判断されます。令和4年に所得税基本通達35-2が改正され、この判断の目安として帳簿書類の保存の有無が示されました。

  • 取引を記録した帳簿書類の保存があれば、おおむね事業所得として扱われる
  • 帳簿書類の保存がなく、その収入が300万円以下なら、原則として雑所得として扱われる
  • 帳簿があっても、収入がごくわずか(例年おおむね300万円以下かつ本業収入の10%未満)だったり営利性が乏しい場合は、個別に事業性を問われることがある

Bさんの副業は収入250万円で、帳簿もない状態にありました。これでは雑所得と判断されやすく、赤字40万円は給与と通算できず、青色申告特別控除も適用できません。ここで注意したいのは、「収入が300万円を超えていれば必ず事業所得になる」わけではないという点です。300万円はあくまで帳簿がない場合の目安であり、最終的には事業としての実態で判断されます。

事業所得として認められるためにすべきこと

分かれ目は、日々きちんと記帳し、帳簿を残しているかという一点に集約されます。やるべきことはシンプルです。

  • 売上・経費を継続して記帳し、帳簿書類を保存する(会計ソフトの利用が近道)
  • 開業したら開業届と青色申告承認申請書を期限内に提出しておく
  • 契約書・請求書・領収書を整理し、反復・継続して営んでいる実態を残す
  • 銀行口座やクレジットカードを副業専用に分け、収支を追いやすくしておく

帳簿づけは、事業所得のメリットを受け取るための入場券のようなものです。申告のためだけでなく、副業が今どれだけ稼げているかを自分で把握するための材料にもなります。副業を始めた初年度こそ、この体制を整えておきましょう。取引先が増え、副業の収入が本業に近づいてきた段階になってからあらためて記帳を始めても、過去にさかのぼって帳簿を作り直すのは手間が大きくなります。会計ソフトに日々の入出金を都度入力しておくだけでも、確定申告期になって領収書の山と向き合う手間を大きく減らせます。

この記事のまとめ

  • 事業所得なら損益通算・青色申告特別控除が使えるが、雑所得では使えない
  • 令和4年改正後は、帳簿書類の保存の有無が区分判定の実務上の目安になる
  • 帳簿保存がなく収入300万円以下だと、原則として雑所得に扱われやすい
  • 継続的な記帳と証憑の整理が、事業所得として認められるための備えになる

税理士として、私が思うこと

副業のご相談を受けるたびに、休日を削って積み上げた成果が、帳簿の有無という一点で報われないことがあるのを見てきました。

この論点で見落としが起きやすいのは、「いくら稼いだか」にばかり意識が向き、「どう記録してきたか」という地味な作業の重みが後回しにされやすい構造があるからだと感じます。

※本記事の設例は、相談現場でよく見られる構造をもとに整理したフィクションです。特定の顧問先・個人を示すものではありません。