年末調整の準備を進めるなかで、「ひとり親控除は今年から38万円でよいのだろうか」と手が止まった方もいるのではないでしょうか。令和8年度税制改正では、ひとり親控除について2つの引上げが決まりました。ところが、この2つは適用が始まる年がそろっていません。この記事では、令和8年分の年末調整で何を変え、何を変えなくてよいのかを整理します。
ひとり親控除とは──まず要件を確認する
ひとり親控除は、原則としてその年12月31日の現況で判定する所得控除です(所得税法81条)。現に婚姻をしていない人、または配偶者の生死が明らかでない一定の人のうち、次の3つをすべて満たす場合に適用されます。
- 生計を一にする子がいること(その子が他の人の同一生計配偶者・扶養親族とされておらず、かつ総所得金額等が一定額以下であること)
- 本人の合計所得金額が500万円以下であること
- 事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる人がいないこと
ここで押さえておきたいのは、婚姻歴の有無も性別も問われないという点です。離婚や死別を経た人はもちろん、結婚をしないまま子を育てている人も、要件を満たせば同じように控除を受けられます。
そして今回の改正が触れたのは、1つ目の要件にある「子の所得」と、控除額そのものの2か所でした。
令和8年度改正で変わるのは2点、ただし適用開始は別々
改正の中身は、次のとおりです。
| 項目 | 改正前 | 改正後 | 適用が始まる時期 |
|---|---|---|---|
| 子の所得要件(総所得金額等) | 58万円以下 | 62万円以下 | 令和8年12月1日施行/同日以後の年末調整 |
| 控除額 | 35万円 | 38万円 | 令和9年1月1日施行/令和9年分の所得税 |
並べて書くとどちらも同じ令和8年度改正なので、同じタイミングで動きそうに見えます。しかし、施行日が分かれています。
子の所得要件の引上げ(62万円以下)は令和8年12月1日施行で、同日以後に行う年末調整から対応が必要。控除額の引上げ(38万円)は令和9年1月1日施行で、令和9年分の所得税から適用されます。
令和8年度改正では、基礎控除の引上げ、給与所得控除の最低保障額の74万円への引上げ、扶養親族等の所得要件の見直しなど、源泉所得税に関わる改正が原則として令和8年12月1日に施行されます。ひとり親控除の子の所得要件も、この「12月1日組」に含まれます。
これに対して控除額の引上げだけは令和9年1月1日施行とされ、令和9年分の所得税から適用されます。つまり令和8年分の年末調整で使う控除額は、改正前と同じ35万円です。
なお子の所得要件は、令和7年度改正で48万円以下から58万円以下へ引き上げられたばかりでした。2年続けて基準が動いているため、前年の資料をそのまま流用すると判定を誤ります。
設例:子のアルバイト収入が134万円だったケース
要件の緩和と控除額の据置きが同じ年に重なると、現場ではこう見えます。
設例(フィクション)
従業員12名の内装工事会社B社。年末調整の実務を任されている経理担当のFさんは、事務スタッフのEさん(40代・未婚のひとり親、給与収入は年約330万円)から扶養控除等申告書を受け取りました。同居する長男(19歳・専門学校生)は、この一年アルバイトで134万円を稼いでいます。
昨年までEさんは対象外でした。生計を一にする子の所得要件(総所得金額等58万円以下)を、長男のアルバイト収入が超えていたためです。ところが令和8年12月以後の年末調整では、この要件が62万円以下になります。給与所得控除の最低保障額74万円を差し引いた長男の総所得金額等は60万円。Eさんは今年から控除の対象に入ります。
そこでFさんが手を止めたのが控除額でした。「控除額も35万円から38万円に上がると聞いた」——改正のニュースを見た記憶を頼りに、38万円で年税額を計算しようとしています。同じ年度の同じ改正でありながら、2つの引上げは適用が始まる年が違います。
このケースで正しいのは、ひとり親控除を適用したうえで、控除額は35万円のままとする処理です。要件の判定は改正後の62万円、控除額は改正前の35万円という、ややねじれた組み合わせになります。
令和8年分の年末調整で気をつけたい4つのこと
1. 判定するのは「収入」ではなく「総所得金額等」
子の所得要件は総所得金額等で判定します。アルバイト収入しかない子であれば、令和8年分は給与所得控除の最低保障額が74万円へ引き上げられるため、給与収入136万円までなら総所得金額等は62万円以下に収まる計算です。収入の数字だけで線を引かず、他に所得がないかもあわせて確認します。
2. 子が他の人の扶養親族になっていないか
要件では、その子が他の人の同一生計配偶者や扶養親族とされていないことが求められます。離婚後に元配偶者が子を扶養控除の対象としている場合、こちら側でひとり親控除を使うことはできません。子の年齢が上がり、別居して働き始めているようなケースでは、生計を一にしているかどうかも含めて確認が必要です。
3. 控除額38万円を先取りしない
最も起きやすい誤りがここです。令和8年分の年末調整で38万円を適用してしまうと年税額が過少になり、後から計算をやり直すことになります。給与計算ソフトの控除額設定が改正後の数値に切り替わっていないか、12月の年末調整に入る前に確認しておきたいところです。逆に令和9年1月以降は、38万円への切替えを忘れないことが課題になります。
4. そもそも申告されているか
ひとり親控除は、扶養控除等(異動)申告書に記載してもらわなければ年末調整に反映されません。要件が緩和された年は、前年まで対象外だった従業員が新たに該当します。対象になり得る人に一声かけるだけで、控除の取り漏れはかなり防げます。
この記事のまとめ
- 令和8年度改正で、ひとり親控除は子の所得要件が58万円以下から62万円以下へ、控除額が35万円から38万円へ引き上げられる
- 所得要件の引上げは令和8年12月1日施行で、令和8年分の年末調整から対応が必要
- 控除額の引上げは令和9年1月1日施行のため、令和8年分の年末調整で使う控除額は35万円のまま
- 判定は総所得金額等で行い、子が他の人の扶養親族とされていないか、申告書に記載があるかもあわせて確認する
税理士として、私が思うこと
税理士として、ひとり親控除は「使えるのに申告されていない」ことが起こりやすい控除だと感じています。家庭の事情を職場に伝えることをためらう気持ちは自然なもので、申告書の該当欄が空のまま提出されることも珍しくありません。
この改正で厄介なのは、慎重な人ほど間違えやすい構図になっていることです。改正の情報を追いかけている担当者ほど「今年から38万円」と先回りしてしまう。改正を知っていることと、いつから使えるかを知っていることは別物だと、あらためて思わされる改正です。
※本記事の設例は、相談現場でよく見られる構造をもとに整理したフィクションです。特定の顧問先・個人を示すものではありません。