決算を前に倉庫を見渡すと、去年のモデルや季節外れの商品が山積み——。「これ、半額でも厳しい。いっそ帳簿価額を下げて評価損にできないか」そう考える経営者は少なくありません。ところが税務の世界では、「売れ残った」「値下げしないと売れない」というだけでは、その損を経費にできないのです。今日はその境界線を整理します。

そもそも「棚卸資産の評価損」とは

棚卸資産の評価損とは、在庫(商品・製品・原材料など)の帳簿価額を決算で時価まで引き下げ、その差額を損失として計上することをいいます。

ただし、法人税法は資産の評価損を原則として損金に認めていません。値下がりした「気がする」というだけで自由に損を出せてしまうと、利益操作の温床になってしまうからです。その原則の例外として、政令が定める一定の事実が起きたときにかぎり、評価損の計上が認められます。評価損は「例外的にしか通らない」ところが出発点です。

設例:型落ち在庫を抱えたCさん

設例(フィクション)

郊外でスポーツ・アウトドア用品店を営むCさん(40代男性、年商4.5億円の2代目社長)。3月決算を前に棚卸しをすると、前シーズンのスキー板、型落ちしたウェア、旧型のフィットネス機器が倉庫にあふれていました。どれも定価では動かず、値札を大きく下げなければさばけません。

Cさんは「どうせ半額以下でしか売れないのだから、その分だけ在庫の簿価を落として評価損を計上できるはず」と考えました。ところが顧問税理士の答えは「そう単純ではありません」というものでした。時価が下がったこと自体は、評価損を認める理由にはならないからです。

「売れ残り」だけでは通らない

税務上、在庫の評価損が認められるのは、次のような特別な事情があるときに限られます。

  • 災害などで著しく傷んでしまった
  • 著しく陳腐化した(季節商品の売れ残り、新製品の登場で旧型が売れなくなった、など)
  • 破損・型崩れ・棚ざらしなどで、通常の方法では売れなくなった

逆に、単なる物価の下落や相場の変動、作りすぎによる値下がり、「セールしないと動かない」という営業上の理由だけでは対象になりません。Cさんの「半額でしか売れないから」という理由だけでは足りないのです。カギは時価がいくらになったかではなく、通常の方法・通常の価額ではもう売れないと言い切れる事実があるかにあります。

型落ち・季節商品を損金にする条件

押さえるべきは3つです。まず「陳腐化」を客観的に説明できること。季節商品なら過去の実績から「翌シーズンには通常価額で売れない」と示せること、型落ち品なら性能や品質が大きく異なる新モデルの登場で旧型が通常の方法では売れなくなったことを、写真・在庫リスト・値引き販売の記録などで裏づけます。

次に、決算で実際に帳簿価額を引き下げる損金経理を行うこと。頭の中で「価値が下がった」と思っているだけでは計上できません。そして、あらかじめ「低価法」の届出をしている会社なら、期末に時価と原価の低いほうで評価する別ルートも使えます。届出がなければ使えないので、事前準備が欠かせません。

決算前の在庫の状態評価損の可否
値下げしないと売れない(理由はそれだけ)認められない
相場・物価が下がった、作りすぎた認められない
季節商品で翌期に通常価額では売れない認められる余地あり
新型の登場で旧型が通常の方法で売れない認められる余地あり

この記事のまとめ

  • 在庫の評価損は「売れ残ったから」「値下げするから」というだけでは通らない
  • 認められるのは災害・著しい陳腐化・通常の方法で販売できない状態など、特別な事実があるときに限られる
  • 決め手は「その事実を資料で裏づけられるか」。決算前の記録づくりが鍵になる

税理士として、私が思うこと

決算前の在庫の相談を受けるたび、経営者の「売れないのに税金だけかかるのか」という表情の重さを感じます。仕入れたときの期待と、売り場で動かない現実とのギャップが、数字の裏にはあります。

この論点でつまずきやすいのは、「時価が下がった」ことと「税務上売れなくなった」ことを同じ意味だと捉えてしまう点だと感じています。感覚での判断と証拠に基づく判断の間に、思っている以上の距離があるのです。

※本記事の設例は、相談現場でよく見られる構造をもとに整理したフィクションです。特定の顧問先・個人を示すものではありません。