「回収できないのだから、その分は経費に落とせるはず」——そう考えて回収不能の売掛金を一気に損金処理した結果、税務調査で否認されて追徴を受ける。中小企業では、実はよくある話です。貸倒損失は、落としたい年に自由に落とせるわけではありません。今日は損金にできる3つの要件を整理します。
そもそも「貸倒損失」とは
貸倒損失とは、取引先の倒産などで売掛金や貸付金が回収できなくなったとき、その回収不能額を損金にする処理のことです。ここで大事なのは、「回収できなさそう」という見込みだけでは認められないという点です。回収不能を裏づける事実と、帳簿上で損失を計上したという手続きの両方がそろって、初めて認められます。
法人税の基本通達は、貸倒れとして損金にできる場面を3つの型に分け、それぞれ要件と計上できる時期を細かく定めています。どの型に当てはまるかで、落とせる金額も、落とせる事業年度も変わってきます。逆にいえば、型と要件さえ押さえれば、貸倒損失は堂々と使える正当な経費だということです。
設例:取引先の倒産で売掛金が回収できなくなったBさん
設例(フィクション)
業務用食材の卸売業を営むBさん(50代・年商2億円)。長く取引してきた居酒屋チェーンが資金繰りに行き詰まり、売掛金240万円が回収できなくなりました。相手はすでに店舗を閉め、社長とも連絡が取れません。Bさんは「もう回収は無理なのだから、今期の経費に落として法人税を軽くしたい」と考えました。
ところが、相手が正式な倒産手続きに入っていない段階で全額を損金処理すると、後の調査で「まだ回収できないとは言い切れない」と指摘され、否認されかねません。焦って落とすほど危ういのが、実は貸倒損失なのです。
損金にできる3つの要件
貸倒れとして損金にできるのは、次の3つのどれかに当てはまるときです。
- 法律上の貸倒れ:会社更生法・民事再生法の認可決定、特別清算の協定認可、書面での債務免除などにより、債権が法律的に消滅・切り捨てられた場合。切り捨てが確定した事業年度に、その金額を損金算入します。
- 事実上の貸倒れ:債務者の資産状況や支払能力からみて、債権の全額が回収できないことが明らかになった場合。担保があるなら処分した後に、その全額を損金経理します。ここは「全額」が条件で、一部だけを貸倒れにすることはできません。
- 形式上の貸倒れ:取引を停止してから1年以上が過ぎた売掛債権などについて、備忘価額(1円)を残して損金経理する方法です。同じ地域の売掛債権の合計が取立てにかかる旅費などの費用に満たず、督促しても支払いがないときも同様に扱えます。こちらは売掛債権が対象で、貸付金には使えません。
Bさんのケースでは、まず事実上の貸倒れに当てはまるか(本当に全額回収不能が明らかと言えるか)を検討し、そこまで断定できないなら、取引停止から1年経過を待って形式上の貸倒れで処理する、という順序になります。
実務のポイント
事実上の貸倒れで「全額回収不能」を主張するには、債務者の資産・支払能力を示す資料が欠かせません。閉店の事実だけでなく、内容証明・返送記録・連絡不通の経緯などを残しておかないと、調査で「明らか」と認めてもらえないことがあります。
- 相手の状態を示す証拠(督促の記録・返送された郵便・閉店や登記の確認)をこまめに残す
- 事実上の貸倒れと形式上の貸倒れのどちらで処理するか迷ったら、要件を確実に満たせる形式上の貸倒れ(1年経過・備忘価額1円)まで待つ選択も検討する
- 消費税の貸倒れに係る税額控除も併せて取れる場合があるので、法人税とセットで確認する
この記事のまとめ
- 貸倒損失は「回収できなさそう」という見込みだけでは損金にできない
- 損金算入できるのは法律上・事実上・形式上の3つの型のいずれかに該当する場合のみ
- 証拠をそろえ、型ごとの要件と計上時期を確認することが否認を避ける近道になる
税理士として、私が思うこと
貸倒れのご相談を受けるとき、多くの経営者が「取られっぱなしのお金を、せめて税金で取り返したい」という悔しさを口にされます。数字の裏に、裏切られた取引の記憶があると感じる瞬間です。
この論点で見誤りやすいのは、「回収できない事実」と「損金にできる事実」がイコールではない点だと感じています。感情が先に立つ場面ほど、この二つの距離が縮まって見えてしまうのが厄介なところです。
※本記事の設例は、相談現場でよく見られる構造をもとに整理したフィクションです。特定の顧問先・個人を示すものではありません。