「今期は利益が薄い。特別償却をフルに使えば赤字が膨らむし、でも枠を捨てるのはもったいない」——設備投資をした中小企業では、決算期にこんな板挟みが起きがちです。使いきれなかった特別償却は、その期限りで立ち消えになるわけではありません。

そもそも「特別償却」とは

特別償却とは、通常の減価償却(普通償却)に上乗せして、取得価額の一定割合を初年度にまとめて経費にできる制度です。たとえば中小企業投資促進税制では、対象となる機械などについて取得価額の30%を上乗せできます。

ここで押さえたいのは、これが「税金がまるごとタダになる」制度ではなく、課税を先送りする(前倒しで償却する)しくみだということです。設備の使用期間を通した償却額の総額そのものは変わりませんが、早い時期に多く経費化することで、その分の納税を後ろへずらせるのが狙いです。なお、制度によっては特別償却に代えて税額控除を選べるものもありますが、今回のテーマはあくまで「特別償却をどう使い切るか」です。

設例:赤字を避けたくて枠を使いきれなかったAさん

設例(フィクション)

金属部品の製造業を営むAさん(58歳)は、年商約2億8千万円・従業員15名の会社を経営しています。前期、老朽化した加工機械を1台1,600万円で入れ替えました。青色申告の中小企業なので、取得価額の30%にあたる480万円を特別償却として上乗せできる立場です。

ところがその期は主力取引先の受注が落ち込み、利益が薄くなってしまいました。480万円をまるごと計上すれば決算は大きな赤字です。折しも設備資金の借入を申し込む予定だったAさんは、銀行の目が気になり、結局その期は枠を使いきらずに決算を締めました。そして残ったのが、「せっかくの枠が、このまま消えてしまうのでは」という不安でした。

「特別償却不足額」として翌期へ繰り越せる

結論から言うと、使いきれなかった分は翌期に繰り越せます。租税特別措置法の規定(措法52の2)により、特別償却の限度額のうちその期に経費計上しなかった部分は「特別償却不足額」となり、翌事業年度へ持ち越して償却できます

  • 繰り越せるのは翌1年間だけ。翌々期へさらに持ち越すことはできません
  • 翌期は、繰り越した不足額を翌期の償却限度額に上乗せして経費にできます
  • 適用には青色申告であることと、各期の申告書に特別償却の明細(付表)を続けて添付することが必要です

Aさんのケースを図にすると、こんなイメージです。

当期(利益が薄い期)翌期
普通償却通常どおり計上通常どおり計上
特別償却枠480万円180万円だけ計上繰越分300万円を上乗せ

繰越が使えるのは1年限りなので、翌期にも利益が出ず結局使いきれなければその先へは持ち越せません。繰越は「もう1年だけ猶予がもらえる」ものと考えておきましょう。

使い切るための検討ポイント

まず押さえたいのは、たとえ繰越をしなくても、設備そのものは普通償却で毎年きちんと経費になっていくという点です。特別償却で取りこぼすのは「早く経費にできる前倒しメリット」だけです。繰越制度は、その前倒しメリットをもう1年守るための救済措置だと捉えると腑に落ちます。

  • 当期の利益と相談しながら、特別償却をどこまで計上するかを決める
  • 使いきれない見込みなら、付表を添付して繰越を確実に確保しておく
  • 翌期の利益見通しも踏まえ、「1年で使いきれそうか」を先に検討する

決算前に「今期は枠を全部使うか、一部を残して翌期に回すか」をシミュレーションしておくと、赤字幅と節税効果のバランスを取りやすくなります。

この記事のまとめ

  • 特別償却を使いきれなくても、その期限りで消えるわけではない
  • 青色申告で付表を添付していれば、余った枠は「特別償却不足額」として翌1年間だけ繰り越せる
  • 繰越は1年限り。利益の出方をにらみながら、前倒しメリットを取りこぼさない計画を立てる

税理士として、私が思うこと

決算期に設備投資の償却をどう配分するか——ここは節税の理屈だけでは割り切れない場面だと感じています。目の前には借入審査を控えて赤字を避けたい経営者の顔があり、数字の裏には資金繰りへの不安が張りついているからです。

この論点でつまずきやすいのは、特別償却が「使わなければ損」という発想で語られやすく、赤字幅とのトレードオフを一度立ち止まって天秤にかける発想が後回しになりやすい点にあると感じています。

※本記事の設例は、相談現場でよく見られる構造をもとに整理したフィクションです。特定の顧問先・個人を示すものではありません。