「手当だから、給与とは別枠で非課税でいいだろう」——そう考えて、出張日当や赴任手当を決め打ちの金額で支給していないでしょうか。同じ「手当」でも、課税されるものと非課税のものはくっきり分かれます。線引きを知らないまま制度を作ると、あとから源泉徴収漏れを指摘されることになりかねません。
そもそも手当の課税・非課税はどう決まるのか
会社が社員に払うお金は、原則として給与所得として課税されます。ここでの給与とは、会社の指揮命令のもとで働いた労務の見返りです。過去の裁判例でも、自分の危険と計算によらず雇い主の指示に従って働き、その対価として受け取るものは給与にあたる、と整理されています(所得税法28条)。
手当も同じで、労務の対価だったり生活費の補助だったりするものは、名前が何であれ給与に含めて課税します。逆に、業務のために実際にかかった費用を会社が肩代わりする「実費の穴埋め」にすぎないものは、給与とは性質が違うため非課税とされています。
- 労務の対価・生活の補助 → 課税(給与に含める)
- 業務上の実費弁償 → 非課税(一定の範囲まで)
判定の軸は「手元に利益として残るか」「実費を精算しているだけか」にあります。ここを押さえると、手当ごとの扱いが見えてきます。
設例:出張日当と赴任手当を新設したAさん
設例(フィクション)
地方に複数の作業拠点を構える設備工事会社(年商6億円)のオーナーAさん(50代男性)。現場が広域にまたがるため社員の出張が多く、遠方拠点への異動もしばしば起きます。人材確保の一環として、Aさんは出張日当を1日8,000円、遠方拠点への異動者には赴任手当として一律30万円を支給する制度を新設し、就業規則にも書き込みました。
Aさんは「どちらも手当とはいえ実費に近いのだから、ふつうの給与のように源泉徴収しなくてよいだろう」と思い込んでいました。ところが、同業他社が似た扱いをして税務調査で指摘を受けたと聞き、急に不安になります。出張日当は本当に全額非課税でよいのか。金額を決め打ちした赴任手当も課税されないのか——。
出張日当と赴任手当、非課税の条件
出張日当と赴任手当は、どちらも「非課税になりうる」手当ですが、あくまで条件付きです。
まず出張日当。業務のための出張でかかる交通費・宿泊費や、それに伴う細かな出費を補う日当は、通常必要と認められる範囲であれば非課税です(所得税法9条1項4号)。カギは「通常必要と認められる範囲」という部分です。役職や出張の実態とかけ離れた高すぎる日当は、その超えた分が給与として課税されるおそれがあります。
次に赴任手当。転勤・赴任にともなう引っ越し費用を補うための旅費も、通常必要な範囲なら非課税です。ただし、実際の転居費用と関係なく「一律30万円」と決め打ちで配る支度金タイプは注意が必要です。実費弁償の枠を超えて生活の足しになる部分は、給与として課税される可能性があります。
身近な手当を課税・非課税で並べると、次のようになります。
| 手当の種類 | 原則の扱い | ポイント |
|---|---|---|
| 出張日当・旅費 | 非課税 | 通常必要な範囲まで。過大な分は課税 |
| 転勤・赴任の旅費 | 非課税 | 実費相当まで。定額の支度金は課税リスク |
| 通勤手当 | 非課税 | 公共交通機関なら月15万円まで |
| 住宅手当・家族手当 | 課税 | 生活の補助なので給与に含める |
| 役職手当・資格手当 | 課税 | 労務の対価なので給与 |
住宅手当や家族手当は「手当」という名前でも、生活費の補助にあたるため全額が給与として課税されます。名前ではなく性質で判定する点に注意が必要です。
実務上の対応
Aさんのようなケースで押さえておきたいのは、次の3点です。
- 旅費規程を整える:出張日当や赴任旅費の金額・支給基準を規程で定め、役職ごとのバランスや世間相場と大きくズレていないか点検する
- 赴任手当は実費精算型に寄せる:引っ越し代・交通費など実際にかかった費用を精算する形にすると、非課税で運用しやすくなる
- 課税される手当は源泉徴収する:住宅・家族・役職などの手当は給与に合算し、毎月の源泉徴収と年末調整の対象にする
会社が給与を払うときは、支払う側(源泉徴収義務者)が所得税を天引きして国に納める仕組みになっています。課税されるべき手当を「非課税」と誤って扱うと、この天引きが漏れ、あとから会社がまとめて追加で納めることになりがちです。制度を新設する前のひと手間が、あとの指摘を防ぎます。
この記事のまとめ
- 手当の課税・非課税は、名前ではなく「実費の穴埋めか、労務や生活の対価か」で決まる
- 出張日当・赴任旅費は通常必要な範囲なら非課税だが、過大な日当や定額の支度金は課税リスクがある
- 住宅・家族・役職手当は最初から給与であり、源泉徴収の対象になる
税理士として、私が思うこと
税理士として給与まわりのご相談を受けるたびに、手当の設計は「社員への思いやり」と「税務の正しさ」が交差する繊細な論点だと感じています。よかれと思って手厚くした手当が、あとで課税漏れとして跳ね返り、経営者が肩を落とす場面も少なくありません。
この論点でつまずきやすいのは、「手当」という名前だけで非課税と判断してしまい、実費弁償かどうかという中身の検証が抜け落ちる点にあると感じています。制度を作る段階で金額の妥当性を点検しておくかどうかが、後の明暗を分けます。
※本記事の設例は、相談現場でよく見られる構造をもとに整理したフィクションです。特定の顧問先・個人を示すものではありません。