決算まであと2カ月、「今期は思ったより利益が出そうです」と経理から聞いた瞬間、税金を減らそうと慌てて備品や社用車の購入に動いていないでしょうか。その一手が、かえって手元の現金を減らす結果を招くことがあります。

決算前の「納税予測」とは何か

決算を正式に締める前に、今期の利益と納める税金の着地点をあらかじめ試算しておくことを「納税予測」と呼びます。決算日を過ぎてしまうと打てる手はほとんど残らないため、決算日の2〜3カ月前を目安に、試算表をもとに利益と税額の見込みを把握しておくことが出発点になります。

この試算を飛ばしたまま節税策の順番を間違えると、税金は減ったのに現金はそれ以上に減っていた、という結果になりかねません

設例:決算前2カ月、社用車の買い替えに動きかけたAさん

設例(フィクション)

内装工事業を営むAさん(50代・男性)は、年商2.4億円の会社を妻と従業員8名で切り盛りしています。決算まで残り2カ月というところで、経理から「今期は例年よりだいぶ利益が出そうです」と報告を受けました。値上がり前に確保していた資材の粗利が想定以上に伸び、大型改装案件も重なった結果でした。

「そんなに税金を払うのはもったいない」。Aさんは、来期使う予定だった社用車の買い替えや備品のまとめ買いを、すぐにでも進めようと考え始めました。ところが手元資金には余裕がなく、翌春には外注先へのまとまった支払いも控えています。

Aさんが陥りかけていたのは、「節税=とにかく経費を作ること」という思い込みでした。現金が出ていく買い物に走る前に、まず立ち止まって考えるべきことがあります。

「経費を作る」と現金は減る

節税と聞くと、お金を使えば税金が減ると考えがちですが、実際に計算してみると印象は変わります。

  • 100万円の物を買って経費にしても、減る税金は実効税率分だけ(実効税率を仮に約30%とすると30万円)
  • 差し引き、手元の現金は70万円分減ることになる
  • しかもそれが「来期以降、本当に必要な物」でなければ、ただの現金流出になる

税金を30万円減らすために現金を70万円手放す。これでは資金繰りはかえって苦しくなります。使うこと自体が問題なのではなく、「順番」と「必要性」を飛ばして飛びついてしまうことが落とし穴になります。利益が出ていること自体は、会社がしっかり稼げている証拠でもあります。

資金を残す「節税の順番」

決算前に検討する項目には優先度があります。上から順に確認していくと、資金への影響を抑えながら節税を進められます。

順番検討する内容現金への影響
① 納税予測着地の利益・税額を試算するなし(まず現状把握)
② 現金が出ない節税未払費用の計上・決算賞与・不要資産の除却・貸倒れの見直しほぼ減らない
③ お金が積み立つ制度経営セーフティ共済・小規模企業共済社外に貯まる
④ 必要な設備投資少額減価償却資産の特例など減るが将来使う
⑤ 使途のない買い物税金対策だけの支出原則見送り

②の「現金が出ない節税」は、すでに発生している費用を今期にきちんと取り込むイメージです。支払い前の外注費や社会保険料、決算賞与(期末までに支給額を各人へ通知し、一定期間内に実際に支払うなどの要件がある)などが代表例になります。

③の経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)は、掛金が全額損金になりながら、解約時には戻ってくる仕組みです。小規模企業共済は経営者個人の退職金づくりを兼ねられます。どちらも社外に現金を移して積み立てる制度であり、使い切りの支出とは性質が異なります。

そのうえで、④本当に必要な設備投資を検討します。中小企業者であれば、30万円未満の減価償却資産を取得価額の全額その年度の損金にできる特例(少額減価償却資産の特例)を使える場合があり、来期以降どのみち買い替える予定だった備品なら、このタイミングで前倒しする意味はあります。ただし「節税になるから」だけを理由に、本来不要な物まで買い足すのは⑤に当たる、税金対策だけの買い物と変わりません。使途のない支出は原則見送るのが基本です。

この順番を守るだけで、決算後に手元へ残る現金は大きく変わってきます。

この記事のまとめ

  • 決算前2〜3カ月を目安に、まず納税予測で着地の利益・税額を把握する
  • 現金が出ない節税(未払計上・決算賞与など)から検討する
  • 経営セーフティ共済・小規模企業共済は現金が社外に積み立つ節税策
  • 必要性の薄い買い物は最後に回し、順番を守ることが資金を残す近道

税理士として、私が思うこと

決算前のご相談で「税金がもったいない」という言葉を耳にするとき、その裏には、必死に積み上げた利益を手放したくないという切実な思いがあると感じています。

この論点でつまずきやすいのは、「経費にする=得をする」という直感が先に立ち、実際に手元へ残る現金の増減まで頭が回りにくいという構造があるからだと思います。

※本記事の設例は、相談現場でよく見られる構造をもとに整理したフィクションです。特定の顧問先・個人を示すものではありません。