「100%グループ内なら、会社どうしで資金を動かしても税金はかからない」──そう聞いて安心していないでしょうか。実はこの特例、株主が法人か個人かで結論が正反対になります。よかれと思って資金を援助した結果、受け取った会社に思わぬ課税が生じることもあります。この記事では、グループ法人税制の寄附金・受贈益の取り扱いと、対象外となる「兄弟会社」の落とし穴を整理します。
グループ法人税制の「寄附金・受贈益は課税なし」とは
グループ法人税制では、100%グループ内の会社どうしでお金や資産を無償であげた場合、払った側(寄附金)は全額が損金不算入、もらった側(受贈益)は全額が益金不算入になります(法人税法37条2項・25条の2第1項)。
イメージは、同じ財布の中でお金を左のポケットから右のポケットへ移しただけ、という発想です。グループ全体で見れば富は増えていないので、あげた側にももらった側にも税金は乗りません。ここまでは多くの経営者がご存じの内容だと思います。
設例(フィクション)
業務用厨房機器の卸売を営む甲社(年商6億円)は、オーナーのAさん(50代)が株式を100%持っています。Aさんは数年前、ネット通販事業のために乙社を別に立ち上げ、こちらも自分名義で全株を保有しています。
乙社は先行投資で赤字続き。そこでAさんは、甲社から乙社へ3,000万円ほど資金を回して立て直そうと考えました。経営者仲間の勉強会で「100%グループ内なら寄附しても両社とも無税」と耳にしていたため、乙社に課税は生じないと思い込んでいます。
同じ100%でも結論が真逆──特例は「法人による完全支配関係」限定
先ほどの特例が使えるのは、「法人による完全支配関係」がある場合に限られます。つまり、親会社という法人が子会社の株式を100%持っているケースです。
Aさんのように、個人ひとりが2社の株式をそれぞれ100%持っている「兄弟会社」の関係は、この特例の対象外になります。理由はシンプルで、一族が複数の会社を使い分けて無償で資産を移せてしまうと、贈与税や相続税を避ける抜け道になりかねないからです。
| 支配のかたち | 寄附した側 | 受け取った側 |
|---|---|---|
| 法人が100%支配(親子会社) | 全額 損金不算入 | 全額 益金不算入(無税) |
| 個人が100%支配(兄弟会社) | 一般の寄附金として限度計算 | 受贈益として課税 |
つまり設例のケースでは、甲社から乙社へ渡った3,000万円が、乙社側で受贈益として課税所得に乗ってしまう可能性が高いのです。無税どころか、赤字の会社にさらに税負担が乗るという、想定と真逆の結果になりかねません。
「100%グループだから無税」と早合点する前に、株主が法人か個人かを必ず確認してください。同じ持株比率でも、頂点にいるのが個人だと特例は使えず、受け取った会社に課税が及びます。
実務上の対応
判断のポイントと打ち手を整理します。
- まず株主構成を確認する:法人が上にいる完全支配関係か、個人オーナーが横並びで持つ兄弟会社かを見分ける
- 贈与ではなく貸付で回す:金銭消費貸借契約でお金を動かせば、そもそも贈与(受贈益)が発生しない
- 恒常的に融通したいなら持株会社:持株会社を頂点に据えて「法人による完全支配関係」を作れば、特例の土俵に乗せられる
- 再建目的の支援は別ルート:子会社の整理・再建のための損失負担は、相当の理由があれば寄附金に当たらず損金算入できる余地がある(法人税基本通達9-4-1・9-4-2)。ただしこの場合はグループ法人税制を使わないため、受け取った側は債務免除益などに課税される点は押さえておく
この記事のまとめ
- 100%グループ内の寄附は、払った側が全額損金不算入・もらった側が全額益金不算入(課税なし)
- ただし特例は「法人による完全支配関係」限定。個人オーナーが並列で持つ兄弟会社は対象外
- 兄弟会社への資金援助は、受け取った会社に受贈益課税が生じうる
- 貸付での資金移動や持株会社化など、資金を動かす前のスキーム確認が不可欠
税理士として、私が思うこと
税理士としてグループ内の資金のやり取りに立ち会うと、経営者の方ほど「身内の会社どうしなのだから」という感覚で動かしてしまいがちだと感じます。数字のうしろには、赤字の会社を何とか支えたいという切実な想いがある。だからこそ、お金を動かす前に一言確認できるかどうかが、後の明暗を分けます。
私は税理士として、そうした経営判断のそばに寄り添い、資金の流れひとつにも丁寧に目を配る伴走者でありたいと思っています。制度の落とし穴で不安になる前に、安心して次の一手を打てるよう、誠実にサポートしていきます。
※本記事の設例は、相談現場でよく見られる構造をもとに整理したフィクションです。特定の顧問先・個人を示すものではありません。