「補助金、採択されました」——その一報に喜んだのも束の間、通帳の残高がみるみる減っていく。実は補助金の多くは後払いで、先に全額を支払ってからあとで戻ってくる仕組みです。ここを知らないと、利益は出ているのに手元の現金が尽きる資金ショートを招きかねません。
そもそも補助金の「後払い」とは
ものづくり補助金や事業再構築補助金をはじめ、多くの補助金は「精算払い」、いわゆる後払いが原則です。お金が動く順番を追うと、こうなります。
- まず事業者が、対象の設備やサービスの代金を全額自分で支払う
- 支払いが終わったら実績報告書を提出し、事務局の確定検査を受ける
- 補助金額が確定して、そこから数か月後にようやく口座へ入金される
つまり採択の通知が届いた時点では、まだ1円も振り込まれていません。「採択されたからお金がもらえる」と早合点していると、支払いのタイミングで手元資金がごっそり減ってしまうのです。
設例:採択の喜びの裏で資金繰りが苦しくなったSさん
設例(フィクション)
年商1.8億円の木工家具製造業を営むSさん(50代・従業員8名)。老朽化した加工機の入れ替えを機に、ものづくり補助金を使って1,200万円のNC加工機を導入することにしました。認定支援機関の力を借りた申請は無事に採択され、補助率3分の2で約800万円の交付が決定。Sさんは「実質400万円で最新機が手に入る」と喜んでいました。
ところが盲点だったのが入金の時期です。補助金は後払いなので、まず機械代1,200万円を全額立て替え、検査を終えた数か月後にやっと800万円が入ってくる。材料の仕入代金や夏の賞与の支払と時期が重なり、Sさんの資金繰りは一気に苦しくなってしまいました。
採択と入金のタイムラグという落とし穴
補助金の怖さは「採択されたのに、お金が入るのは半年先」というタイムラグにあります。しかも戻ってくるのは支払額の一部だけです。1,200万円払って戻りは800万円ですから、残り400万円は最初から自己負担です。この構造を整理しないまま発注すると、次のような事態が起きます。
- 設備代の全額を一時的に立て替える必要がある
- 補助金が入るまでの間に、仕入・給与・賞与など通常の支払も並行してやってくる
- 「利益は黒字なのに現金がない」という、いわゆる勘定合って銭足らずの状態に陥る
補助金は採択された時点では金額が確定しておらず、実績報告と確定検査を経て初めて交付額が固まります。検査で対象外と判断された経費があると、想定より入金が少なくなることもあるので注意しましょう。
つなぎ資金の回し方
入金までの穴は、事前に段取りしておけば十分に埋められます。ポイントは4つです。
- つなぎ融資を先に確保する:日本政策金融公庫や信用保証協会付き融資で、補助金が入るまでの立て替え資金を借りておく。入金後に一部を繰上返済する前提で組めば、利息の負担も軽く抑えられます
- 認定経営革新等支援機関を味方につける:申請のサポートだけでなく、公庫の「中小企業経営力強化資金」など、支援機関の関与が前提となる制度も選択肢に入ります。対外的な信用力アップにもつながります
- 資金繰り表で入出金のタイミングを見える化する:いつ立て替えが発生し、いつ補助金が入るのかを月単位で並べれば、不足する月とその金額が一目で分かります
- 融資を申し込む時期を選ぶ:銀行の決算期前など、審査が動きやすいタイミングを狙うと、話が前に進みやすいことがあります
節税のつもりで手元資金を使い込むのは逆効果です。利益を削れば銀行から見た返済力(税引後利益)も下がり、肝心のつなぎ融資が借りにくくなってしまいます。
この記事のまとめ
- 補助金は原則「精算払い(後払い)」。採択の通知だけではまだ入金されていない
- 設備代を全額立て替え、入金は数か月先という構造がタイムラグを生む
- つなぎ融資の確保・資金繰り表での見える化をセットで準備しておく
税理士として、私が思うこと
補助金の相談を受けるとき、採択の喜びの裏側で「入金までどう資金を回すか」まで描けている経営者は、意外と少ないと感じています。新しい設備が入って現場が活気づく一方、通帳とにらめっこで眠れない夜を過ごす社長の姿を思うと、資金の段取りは制度の中身と同じくらい大切だと痛感します。
この論点でつまずきやすいのは、「採択」という言葉の響きが強く、その先にある「精算払い」という支払いの実務が案内の中で埋もれてしまいやすい点にあると感じています。
※本記事の設例は、相談現場でよく見られる構造をもとに整理したフィクションです。特定の顧問先・個人を示すものではありません。