「利益が400万円しかないのに、6,000万円の借入なんてできるはずがない」──設備投資を前に、決算書の当期純利益を見てため息をついていないでしょうか。実は、金融機関が見ている「返せる力」は利益だけではありません。この記事では、返済可能な借入額を測るための計算式と、その目安の使い方を解説します。

返済原資は当期純利益だけではない

借入金の返済に充てられるお金を「返済原資」といいます。ここでよくある誤解が、「税引後の利益=返済に回せる全額」という見方です。

決算書には、もうひとつの返済力が隠れています。それが減価償却費です。減価償却費は、機械や車両の購入代金を耐用年数にわたって分割計上する会計上の費用で、計上した年に実際の現金支出はありません。帳簿の利益を押し下げてはいるものの、そのお金自体は会社に残っている──ここがポイントです。

簡易キャッシュフロー=税引後利益+減価償却費

返済原資を手早くつかむには、次の式を使います。

計算ステップ金額のイメージ
税引後利益(当期純利益)決算書の最終利益
+ 減価償却費現金支出のない費用を足し戻す
= 簡易キャッシュフロー実際に返済へ回せるお金

この「税引後利益+減価償却費」を簡易キャッシュフロー(簡易CF)と呼びます。借入の話をするときの出発点は、利益ではなくこの簡易CFです。

設例(フィクション)

一般貨物運送業を営むBさん(58歳)の会社は年商2億8,000万円。老朽化したトラック3台の入れ替えに約6,000万円の設備投資を計画し、金融機関に相談したところ「御社はいくらまで返せますか」と逆に問われて答えに詰まりました。

直近の当期純利益は約400万円。しかしこの会社には車両の減価償却費が年間約1,500万円あります。簡易CFは 400万円+1,500万円=1,900万円。利益の約5倍の返済力が、決算書の中に眠っていたことになります。

債務償還年数10年が借入余力の目安

いくらまで借りられるかの目安には、債務償還年数(借入金残高÷簡易CF)を使います。金融機関の実務では、この年数が10年以内なら健全域とされるのが一般的です。

裏返せば、「簡易CF×10年」がおおよその借入余力ということになります。設例のBさんなら、1,900万円×10年=1億9,000万円。当期純利益400万円だけを見ると心細く映った6,000万円の設備投資も、簡易CFで測り直せば十分に射程圏内です。

トラックや機械が主役の設備型ビジネスほど減価償却費は大きくなります。利益だけを物差しにすると、自社の返済力を大幅に過小評価してしまうのです。

「借りられる額」まで借りてよいわけではない

借入余力はあくまで上限の目安であり、そこまで借りることを勧めるものではありません。あわせて次の3点を確認してください。

  • 手元資金の厚み──現預金が月商の何か月分あるか。返済しながら資金が枯れない水準を保てるか
  • 更新投資との重なり──設備型の事業は数年ごとに再投資が来る。返済のピークと次の投資が重なる時期に注意
  • 行き過ぎた節税──利益を無理に圧縮すると簡易CFも縮み、将来借りられる金額そのものが小さくなる

とくに3つ目は盲点です。目先の税負担を減らすための利益圧縮が、数年後の資金調達の選択肢を狭めることがあります。

この記事のまとめ

  • 返済原資は「税引後利益+減価償却費」=簡易キャッシュフローで測る
  • 借入余力の目安は簡易CF×10年(債務償還年数10年以内が健全域)
  • 利益だけで判断すると設備型ビジネスほど返済力を過小評価する
  • 上限まで借りるのではなく、手元資金・更新投資・節税とのバランスで決める

税理士として、私が思うこと

融資のご相談では、決算書の利益の欄だけを見つめて表情を曇らせる経営者の方に、たびたびお会いします。ところが減価償却費まで含めた返済力を一緒に電卓で確かめると、数字は同じ決算書なのに、見える景色が変わる。数字の読み方ひとつでこれほど安心が生まれるのかと、いつも感じます。

だからこそ私は税理士として、社長おひとりに数字と向き合わせるのではなく、隣で伴走しながら丁寧に読み解いていきたいと考えています。漠然とした資金の不安を根拠のある安心に変えるお手伝いを、誠実に続けてまいります。

※本記事の設例は、相談現場でよく見られる構造をもとに整理したフィクションです。特定の顧問先・個人を示すものではありません。